美女とコーヒーの出てくる本を紹介します

bookyaの本の紹介

美女と美味しいコーヒーのある本をご紹介

桃源郷に浸りたい

 今週のお題「平成を振り返る」。諸君、平成は満喫できたか。おそらく目まぐるしく回る毎日に酔わぬよう、必死に目線を回転方向に合わせたため、周りの景色を見る暇もなかったのではないだろうか。人々は「令和こそは安泰なれ」と呟くのは無理もない。

 振り返るなら悪いものより良いものを。そして心地よい思い出に浸りたいなら、世界や日本の出来事などとグローバルに振舞うべきでない。浸るべきは自身の過去にこそある。

 私は過去の出来事を美しく補正するクセがある。小學校の頃の記憶となれば老朽化に伴い色彩が霞みそうなものだが、私は朽ち果てることを良しとせず、頭の中で補修工事を行う。工事とはいえ、当時の色彩を再現するつもりは毛頭ない。挙句に好きな色ばかりを塗りたくるものだから、完成したものは『新しい思い出』と言って差し支え無いものとなった。蛍光色やラメを散りばめた思い出は薄目でなければ耐えられぬほど光に満ちている。加えて年中、薄桃色の霧が立ち込め蛍光灯などはボンヤリに明るく照らす。人の顔は光の加減と霧の濃さも相まって輪郭は形を失うが笑顔であることはハッキリしていた。つまり、私が浸っていたのは自身で作り上げた桃源郷に他ならなかったのだ。

 なんとも美しいユートピアであろう。私は過去をイジリ回して美しい世界を作り上げた。小學時代であるから母や担任から叱られたことも多い。しかして私はそれすらも美しく描き換える。それほどに私の妄想力は強力であるのだ。

 読者諸君も心当たりはないか。「あの頃はよかったな」と現実から目を逸らすことが一度や二度あるはずだ。つまり貴君にも素晴らしい妄想力が備わっている証拠なのだ。安心するがいい。今ヘトヘトに疲れようと、それすらステキな思い出にしてしまうのが我々なのだ。予言してみせよう。一年後には「平成はよかったな」と呟くことだろう。

暗殺者、日用品

 今週のお題「新生活おすすめグッズ」を語らせて頂く。期待外れかもしれないが、おすすめ中のおすすめは『日用品』の他ない。弁明するつもりではないが、今まで私はイスやら掃除機やらの持論を述べてきた。そして、それらの言動について謝罪するつもりは毛頭ない。彼らもまた、生活を輝かせるアイテムに違いないからである。

 改めて言おう。日用品を侮るなかれ。彼らは我々が新生活ホヤホヤであることを熟知した上で牙を向けてくる。考えてほしい。今まで実家という衣食住が全て整ったオアシスから突然〈衣〉以外を剥がされて独立するというのだ。100歩譲って彼ら彼女らに獣を狩る知識はあるとする(溺愛され育てられた私は買い物もしたことがない程、野生に疎かった)。しかし、彼らには狩った獣を調理する術はあるのか。調理した食材を盛り付ける器はあのるか。甚だ疑問である。言うまでもないが、私にはそれらの一切が備わってなかった。

 ここで、私の新生活当初の語るも恥、聞くも恥の話を一つ口述しよう。聴きたくないものは耳栓をした後に読み進めるとよろしい。実家という城に独立宣言をした数ヶ月後、私は新たな城の前に佇んでいた。ベッドやテレビ、フライパンや冷蔵庫など新生活必需品〈初級編〉に載っていたものは揃えていた。コレらがあれば私の新生活第一歩は華々しいこと違いないと息巻いたのを覚えている。その日の夜に事件は起こったのだ。パスタを茹でたが盛り付ける皿がなく、私はフライパンから麺を啜った。風呂に入ろうと準備したところでバスタオルがない。私は閉店間近のニトリへ、〈蛍の光〉をBGMに店内を駆け巡った。トイレに行けばトイレットペーパーがない。発車間近の尻を引き締めて薬局へ向かった。挙句には、歯ブラシがない。私は2度目の薬局へ向かう。最近は薬局の深夜営業をしている所が多く、初めてその意味に気づかされた。まだまだ他にもあるが語ればキリがなく、私の心臓も持ちそうにない。

 分かっていただけただろう。新生活とは落とし穴の連続で、今まで軽視してきた日用品に落とされることほど、恐ろしいものはない。4月も半ばに差し掛かった現在であれば、新生活初心者の皆はあらかたの穴に落ち、日用品のない恐怖に怯え尽くした頃だろう。それで良い。そうして学習していくのだ。そうして学んだことは数年後には輝かしい記憶となる。私は事前準備を入念にすることを強調したいのではない。必要なのは気づいた時の行動力と発想力。つまり、『生き抜く力を備えよ』の一言なのだ。力を蓄えた私はティッシュペーパーを切らしていたことに気づく。大丈夫トイレットペーパーを使えば良いのだ。

冬に扇風機を回すということ

今週のお題「新生活おすすめグッズ」である。我が家は幾度かの引越しを経験した。初めは大学近くの8畳間で、初々しいくも恥ずかしさが残る四年間を過ごした。その後は就職先近くの同じく8畳間。そこは築年数にしては内装が真新しく、聞いたところによるとリノベーションなる大魔術を執り行ったそうな。家賃は3万という破格の隠れ家である。そして数年の時を経た後、現在の拠点に移ることとなる。社会人の経験年数と比例して部屋も膨張し、9畳間にまで成長した。これが我が城の歩みの全てだ。

 私には居を移して尚、献身的に付き従う美しい姫がいた。それは首筋から、羽まで真白な扇風機。彼女はいかなる部屋でも変わらぬリズムで首を振り続けてくれた。その所作は舞踊と言っても差し支えないほど優雅である。加えて言うと、彼女は必ずエアコンを前に舞を披露披露するのだった。

 彼女の役割はエアコンから放たれる熱風、時には冷風を部屋全体に行き渡らせることにある。既に説明した通り、私は何度か部屋を移っており、その全てが『冬は寒く、夏は暑く』の精神を宿していた。冬に暖房したなら全ての熱風が一刻も早く寒い部屋から退散しようと天井に避難路を求める。それらを再び地上に戻せるのは舞姫のみなのだ。彼女の舞は〈寒い〉と〈暖かい〉を優しく混ぜ合わせ、部屋全体に春をもたらした。

 扇風機は夏のみの代物ではない。むしろ冬にこそ、底力をみせてくれる。読者諸君には騙されたと思い、ぜひ使って頂きたいと思う。補足であるが彼女の舞は時折、私自身を吹かせることがある。気づくと目や喉をカラカラにしてしまうため、取り扱いにはご注意願いたい。美しい姫にも棘はあるのだ。

座らないイスを一脚

 今週のお題「新生活おすすめグッズ」を紹介させて頂く。聞きたまへ。一人暮らしを始めるものよ。部屋の内装には満足がいっているか。

 一人暮らし開始当初の私の部屋は有り体にいって貧しかった。別にお金がないとか食べ物に困るとかを言いたいのではない。ただ簡素であったのだ。テレビ、ベッド、背の低いテーブル、カーペット。これがあれば当初の我が城は再現できる。まるでオママゴトをしようにも道具が足りず、用意できた数少ない品々をシートの上に配置したかのような有様である。足りない品は想像で補うほかない。当然だが、この城に好んで来訪する勇者は現れなかった。

 ゴチャゴチャと雑多に物が溢れた部屋は好かない。しかし、シンプルがすぎて無味無臭の部屋も同様に好けなかった。そんなワガママな私はどうせシンプルであるなら、『お洒落シンプル』になることを旗に掲げ、その一歩として洒落たインテリアを探す旅に出る。「これぞ」という品と奇跡的な出会いを果たすまで我が城には戻るまいと心に誓いながら。

 結論から言うと、その出会いまでは長い道のりを要した。ある日、私は無印の加湿器に出会う。薄明るいライトのついたそれをみていると、我が城をモウモウと素敵な煙で包み、優雅にコーヒーを飲む私が想像できた。しかし、購入して配置してみるも、さほど洒落ていない。モウモウとした煙も店先でみた時より勢いがなく感じる。あの時の想像は所詮煙の中の幻想であったのだ。そのような幻想には多々出会うことがあり、その度に物悲しさに打ちのめされた。

 私が一脚のイスと出会うのは社会人になってからである。初めは読書用のイスが欲しくなり、購入することとなる。イスを部屋の窓側、陽当たりの良い場所に置くと驚いた。とても洒落ているではないか。シンプルな部屋に端整なラインを描くイスが一脚あると、そこが雑誌の中の『洒落た部屋』にみえるのだ。それはもはや、インテリアといって差し支えない。これは座らずに洒落た小モノを置いた方が見栄えするのではないか。しかし悲しいかな。私の部屋には洒落た小モノなぞ探してもみつかるはずがない。仕方がないのでティッシュを置き、鑑賞してみた。

 なんと凛々しいティッシュになったことか。


 

 読者諸君、君たちなら何を並べるか。

今更な、世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド 上

~図書館、テーブルの向かいに座る彼女とホットコーヒーを飲む~

 今更、世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド村上春樹)を読んでみる。村上春樹氏の作品をこの場で紹介するのは《海辺のカフカ》以来である。読了後に目を閉じると、図書館の古めかしい木とホコリの匂いが漂ってくる。棚が並んでいるが本は置かれず、代わりに一角獣の頭骨が本棚に静かに整列していた。異様な雰囲気を醸し出した館内で、コーヒーを手に向かい合った男女が静かに話す。

 主人公は男性である。とある場所から『周囲を壁に囲まれた街』へやって来た。この街で暮らすにあたり、彼はいくつかのルールに従う必要がある。それは、彼はこれから〈夢読み(ゆめよみ)〉と呼ばれる仕事に就くこと、今後、彼は夢読みと呼ばれること、街に入るには影を捨てなければならないこと(この街の門をくぐる前に、彼の影は地面から引き剥がされた)…読み進めるごとに、この街の独特の様々なルールがみえてくる。彼はルールに従い、〈夢読み〉の仕事をについて何も知らないまま図書館の重い木の扉を開けることとなる。

 図書館には夢読みの仕事をサポートするための女の子が勤めている。彼女は黒髪を後ろで束ねており、広い額がみえる。ポットからコーヒーを注ぎ、彼に夢読みやこの街の仕組みについて助言をくれた。図書館の人物というと物静かな印象を受けるが、『広い額』という言葉だけで活発な雰囲気も漂う気がする。これは私の錯覚だろか。

 この作品にアイスコーヒーはない。それは季節が秋から冬に向かっていることもあるだろう。加えて、どうやら夢読みの仕事は思いのほか疲労してしまうようなのだ。仕事を終えて重いため息をつく彼に彼女はコーヒーを、時には軽食やクッキーなどと共に差し出す。用意されたマグカップ2個。外は日が暮れ、寝床につくものもいる時間帯である。向かいには彼女が座り、二人だけの夜の茶会が開かれた。なんと怪しくも幸福な時間だろうか。

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朝起きて、とりあえず掃除機

今週のお題「新生活おすすめグッズ」を紹介させて頂く。私は基本的に『モノ』に関しては手持ちが少ない。勘違いのないように言うとミニマリストと呼ばれる方々と私は同種でない。彼らは余分なものを除外し、必要最低限の品々を手元に置く。私の場合はというと「メンドウ臭がりで結局使わないことになる」ことを学習している人間だ。学習というからには、それなりに買い込み失敗した過去がある。無印の加湿器やコンパクトな包丁研ぎ、いい匂いのしたファブリーズ、果ては布団クリーナー…数々の品が家の隅で今か今かと出番を待っている声が聞こえてくるようだ。しかし使う機会はいまだない、なぜなら私が『メンドウ臭がり』であるからだ。

 このような悲しい品々を減らすため、私は本当に使うものしか買わないことにしている。いかに画期的なモノであり横の者が喉から手を出し我先にと飛びかかろうと、その商品の手順がムズカシイなら私には不要なモノといえる。

 そんな私が金をかけたモノがある。名を『ダイソン』。英国から来た手順がヤサシイ掃除機である。掃除機とて侮るなかれ、コードレスのため毎回コンセント探す必要もなく汚れが気になった時はササッと吸い取ってくれる。吸引力は絶大で使用中は他の音をかき消すほどだ。掃除機が駆けたあとは平らな地面ができるのみ。ただ清楚な空気が辺りを包む。また吸い取ったホコリや髪の毛が牢獄の中でクルクル回る様を目視して楽しめるといった優れモノだ。これを買わずしてなにを買うのだと声を大にして言いたい。しかし、コードレスのため充電が無くなればたちまち破壊力を失う。まるで街中を縦横無尽に暴れまわっていた怪物が突如として美術館の石像の一つに変わってしまったようである。充電すらメンドウ臭がる私は度々、ホコリを前に石像を持つといった滑稽な姿を披露しているのだ。


 

ターザンから大学生へ変貌

 今週のお題「新生活おすすめグッズ」と聞き、私は大学入学当初の『新生活』を思い出す。当時の私は初めて一人暮らしをすることもあり、夢物語のようにキラキラした妄想を胸の内に溜め込んでいた。どうやら初経験や新年度といった変化に対して、私は不要に期待しすぎる癖があるらしく、今でも桜が咲くたび腹の底から「何か、楽しそうなことが起こる」という根拠のない気持ちが湧き出してくる。

 衝撃は服装と髪型であった。一緒に入学した面々をみて本当に同級生かと疑問に思うほど、彼ら彼女らは大人の様相を飼いならしていた。対して私ときたら、ヘンテコなロゴのついた服や丈の合わないズボンを身につけている。田舎出の私にとって高校時代の私服など陰部に葉っぱをつけたも同然で、ターザンと変わらない様であった。髪型に対してもワックスの正しいつけ方も分からず、ベタベタと髪に塗ったくった経験しかなかった。そのような有様であるから余計に獣臭さが目立っていたに違いない。

 髪にワックスを塗ったターザンが人里に降り、現代社会に生きる若者とコミュニケーションを取ることは困難を極めた。理由はお察し願いたい。おそらく彼らは干し柿に甘い蜜を垂らしナイフとフォークを駆使して食すのだろうと想像したほどである。

 入学早々これでもかと打ちのめされたが、諦めるわけにはいかない。これから四年間を彼らと過ごすことになるからだ。『青春』を謳歌するには先ず見た目だと推測し、陰部の葉っぱをスキニージーンズに変え、恥ずかしがりながら初めて美容院で髪を整えた。似合っているか無いかもわからぬまま、とりあえずの新しい私に化けた。その後、念願の友人第一号を手に入れることとなる。

 これから人里に降りようとするターザン諸君、まずは服装と髪型から徐々に世間に慣れていくことをお勧めする。