美女とコーヒーの出てくる本を紹介します

bookyaの本の紹介

美女と美味しいコーヒーのある本をご紹介

今更な、世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド 上

~図書館、テーブルの向かいに座る彼女とホットコーヒーを飲む~

 今更、世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド村上春樹)を読んでみる。村上春樹氏の作品をこの場で紹介するのは《海辺のカフカ》以来である。読了後に目を閉じると、図書館の古めかしい木とホコリの匂いが漂ってくる。棚が並んでいるが本は置かれず、代わりに一角獣の頭骨が本棚に静かに整列していた。異様な雰囲気を醸し出した館内で、コーヒーを手に向かい合った男女が静かに話す。

 主人公は男性である。とある場所から『周囲を壁に囲まれた街』へやって来た。この街で暮らすにあたり、彼はいくつかのルールに従う必要がある。それは、彼はこれから〈夢読み(ゆめよみ)〉と呼ばれる仕事に就くこと、今後、彼は夢読みと呼ばれること、街に入るには影を捨てなければならないこと(この街の門をくぐる前に、彼の影は地面から引き剥がされた)…読み進めるごとに、この街の独特の様々なルールがみえてくる。彼はルールに従い、〈夢読み〉の仕事をについて何も知らないまま図書館の重い木の扉を開けることとなる。

 図書館には夢読みの仕事をサポートするための女の子が勤めている。彼女は黒髪を後ろで束ねており、広い額がみえる。ポットからコーヒーを注ぎ、彼に夢読みやこの街の仕組みについて助言をくれた。図書館の人物というと物静かな印象を受けるが、『広い額』という言葉だけで活発な雰囲気も漂う気がする。これは私の錯覚だろか。

 この作品にアイスコーヒーはない。それは季節が秋から冬に向かっていることもあるだろう。加えて、どうやら夢読みの仕事は思いのほか疲労してしまうようなのだ。仕事を終えて重いため息をつく彼に彼女はコーヒーを、時には軽食やクッキーなどと共に差し出す。用意されたマグカップ2個。外は日が暮れ、寝床につくものもいる時間帯である。向かいには彼女が座り、二人だけの夜の茶会が開かれた。なんと怪しくも幸福な時間だろうか。

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