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冬に扇風機を回すということ

今週のお題「新生活おすすめグッズ」である。我が家は幾度かの引越しを経験した。初めは大学近くの8畳間で、初々しいくも恥ずかしさが残る四年間を過ごした。その後は就職先近くの同じく8畳間。そこは築年数にしては内装が真新しく、聞いたところによるとリノベーションなる大魔術を執り行ったそうな。家賃は3万という破格の隠れ家である。そして数年の時を経た後、現在の拠点に移ることとなる。社会人の経験年数と比例して部屋も膨張し、9畳間にまで成長した。これが我が城の歩みの全てだ。

 私には居を移して尚、献身的に付き従う美しい姫がいた。それは首筋から、羽まで真白な扇風機。彼女はいかなる部屋でも変わらぬリズムで首を振り続けてくれた。その所作は舞踊と言っても差し支えないほど優雅である。加えて言うと、彼女は必ずエアコンを前に舞を披露披露するのだった。

 彼女の役割はエアコンから放たれる熱風、時には冷風を部屋全体に行き渡らせることにある。既に説明した通り、私は何度か部屋を移っており、その全てが『冬は寒く、夏は暑く』の精神を宿していた。冬に暖房したなら全ての熱風が一刻も早く寒い部屋から退散しようと天井に避難路を求める。それらを再び地上に戻せるのは舞姫のみなのだ。彼女の舞は〈寒い〉と〈暖かい〉を優しく混ぜ合わせ、部屋全体に春をもたらした。

 扇風機は夏のみの代物ではない。むしろ冬にこそ、底力をみせてくれる。読者諸君には騙されたと思い、ぜひ使って頂きたいと思う。補足であるが彼女の舞は時折、私自身を吹かせることがある。気づくと目や喉をカラカラにしてしまうため、取り扱いにはご注意願いたい。美しい姫にも棘はあるのだ。