美女とコーヒーの出てくる本を紹介します

bookyaの本の紹介

美女と美味しいコーヒーのある本をご紹介

今更な、虹の岬の喫茶店

~おいしいコーヒーと音楽♪ 岬カフェ ここを左折~

 今更、虹の岬の喫茶店森沢明夫)を読んでみる。この作品は2014年に『ふしぎな岬の喫茶店』に改名され映画としても上映された。古今東西の珈琲語においてカフェは一種のセラピーの一つに思えることがある。岬カフェも例に漏れず、訪れる人々は何かしらの毒素をその体内にため込んでいた。亡くなった奥さんと残された一人娘を思い悲観する父親、将来に悩む男子大学生など来訪者は様々だが、皆一様に毒素を出してくれる何かを必要としている。岬カフェは小さな岬の先端に佇んでおり、場所はとてもわかりづらい。カフェへの初来訪は偶然の出会いのように描かれた。

 うら若き美女が淹れたコーヒーは美味である。これには反論の余地はない。熟練されたマスターが入れたコーヒーも言うまでもない。では美しいお婆さんが淹れたコーヒーはどうか。どうやら味で楽しませてくれるのみでなく、癒してもくれるらしい。おすすめはホットコーヒー。

 「この店は、ほら、生きてるから」と彼女は語った。店にはお客さんが制作したカップや絵が飾られている。一人一人、別々の人が作っているものだから統一感はない。しかして、それらの作品に包まれていくことで店が完成されていく気配がある。いや完成ではなく成長なのか。生きているのだから、そこにはきっと温かな血液が流れて一定のリズムの鼓動が聞こえてくるのだろう。その場所は懐かしき母親の腹中か。ならば我々哺乳類には抗いようがない安心感がそこにはあるのだ。海辺の道を走る際はぜひ、この店を見逃さないように。目印はトンネル出口付近の小さな立て看板《おいしいコーヒーと音楽♪ 岬カフェ ここを左折》